八洲事件
八洲事件(東京高裁58.12.19)
事件概要
原告労働者Bらは、地上測量の調査等を目的とする被告側使用者Kの従業員である。入社後のBらの賃金額は、Bらが閲覧した会社の求人票に記載された基本給見込額を下回るものであった。Bらは、入社試験の合格通知が送られてきた後、KがBらに労働条件を明示した事実がないので、Bらと会社間に求人票の記載賃金等を内容とする労働契約が成立していたと主張して、Bらの入社時に遡り求人票記載の賃金見込額と実際にBらが受領した賃金確定額との差額の支払いを求めた。
労働者敗訴
Bらの賃金見込額と賃金確定額の差額支払いの請求を棄却した。
求人票に記載された基本給額は賃金の「見込額」であり、最低の支給を保障したわけではなく、将来入社時までに確定されることが予定された目標としての額である。
したがって、「見込額」と実際の「確定額」が相違しても止むを得ないものと考えられる。しかし、応募者は、求人票記載の賃金見込額の支給が受けられるものと信じて求人に応募しているのであるから、求人票記載の見込額を著しく下回る額で賃金を確定すべきでない。社会の常識や通念に照らして、求人票記載の見込額を著しく下回る額で賃金を確定することは、「権利の行使や義務の履行を信義に従い、誠実にこれをすべきものである」とする「信義誠実の原則」(民法1条2項)に反する。
本件につきこれをみると、経済上の変動に対するKの現状分析に基づく判断に明白な誤りがあったとか、誇大賃金表示によるかけ引き等社会的非難に値する事実は認めることはできなかった。
また、内定者には入社以前に一応事態の説明をして注意を促していた。
さらに、確定額は、見込額より、3000から6000円程度下回っているとはいえ、前年度の初任基本給よりはいずれも7000円程度上回っている。
以上の事実から、基本給額が労働契約に影響を及ぼすほど「信義誠実の原則」に反するものとは認めることができない。
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