東箱根開発事件
東箱根開発事件(東京地判昭50.7.28)
事件概要
Dらは、土地開発事業・土地売買等を営むW会社に雇用されたが、Dらは1年もたたないうちに、勤務ぶりが悪い等の理由により辞職を迫られ、事実上解雇されるに至った。Wにおいては、賃金制度の中に勤続奨励手当なるものが設けられていたが、この手当は労働契約期間(Dらの場合は各1年)を全期間勤続した場合に期間満了時に支給され、解雇を含め中途退職した者には支給されないものであった。ただし、Wはこの手当の前渡しを希望する従業員に対しては、その月割額に相当する金員を期間満了時に本来支給を受けるべき手当額から控除することにより返還するという条件で貸し付けていた。この結果、従業員が労働契約期間の途中で退職した場合は、それまでに支給されていた勤続奨励手当の全額を返還しなければならないこととされていた。
Dらは、Wにより解雇される際に、この勤続奨励手当の返還請求をちらつかせられたため、未払賃金や解雇予告手当の支払請求等を断念する旨記された「覚書」にやくなく署名・押印し、和解契約を締結した旨主張した。そして、Dらは、このような和解契約は労基法20条、24条の脱法行為であり、憲法・労基法により保障された労働者の権利を侵害するものであること等から、民法90条の公序良俗に違反し無効である等と主張し、Wに対し、未払賃金、解雇予告手当及び附加金の支払いを求めて提訴した。
労働者勝訴
この勤務奨励手当制度における前資金は、その運用・取扱いの実態や支給額等から判断すると、実質上労働対価として支給される賃金の一部である。そうすると、中途退職の場合における前貸金返還の約定は、「もともと貸付金としての実質を有していないにもかかわらず、「前貸金」という制度を建前上採用し」たものであり、それにより社員の「労働を事実上強制させ」たり、「気に入らない社員の解雇を著しく容易にし」たり、かつ、労働契約の終了に伴う「未払賃金の清算とか解雇予告手当の支払等について、使用者側に一方的に有利な立場を確保」したりする意図の下になされたものと言える。したがって、このような前貸金返還の約定は、労働者を強制的に足留めさせることを禁じている労基法5条、前借金による相殺を禁止した同17条、及び、解雇予告を定めた同20条の脱法行為にあたる点を払拭できず、「民法90条の公序則に抵触し、無効というべきである」。
また、Wが、法的には効力を認められないこの前借金返還請求を利用して、Dらに未払賃金等放棄させるような内容の和解契約に応じさせたことは、前掲の前貸金返還約定の効力に関する判断と同様の理由等により、民法90条に違反して無効である。
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